ROUND52 Mさんへ⑩〜現実なのか俺にはわからないよ〜
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「・・実は先生から言われました・・気管切開をして延命するか・・それとも自然のままでいくか、どちらにしますかって・・それでそのままでと先生に伝えました・・」
・・
え?・・
・・ちょ、ちょっと待ってくれよ・・嘘だろ・・そこまでいくのか?・・だって俺とMさんは同じ歳なんだぜ・・何でそんなおじいちゃんみたいな話になってくるんだ・・なんだよそれ・・Mさんとはまだまだこれから野球とか見に行って、お互いにいい状況になって、あのときは大変だったけど何とか乗りこられたね、なんて話ができたらって考えてたんだぜ・・あんまりだよ、Mさんは結婚だってしてなかったんだ・・そりゃあないじゃないか・・本当のことなのか?・・
・・
「・・そうですか、私、何も言えないです・・お姉さんにも何て言っていいのか・・」
・・お姉さんの顔はある程度覚悟が固まっているように見えた・・俺は本当に何も言葉がでない・・
「・・延命すると治療費も高くなりますから・・万年さんには必ず連絡します・・」
・・
・・
・・その後しばらくして仕事中にお姉さんから連絡がきた・・いよいよ今日、明日がヤマになるとのことだった・・年休を取ってすぐに病院に向かった・・救急とは違う一般の病院だった・・病院に着き、お姉さんに連絡を取り病室に向かった・・正直、俺は怖かった・・どんな様子なのか・・
・・
お姉さんから、いよいよ最後ですから、よく見てやってくださいと言われ、病室に入った・・窓のカーテンは日中にもかかわらず閉められていて薄暗かった・・隙間から夕陽がそこににつかわしくないくらい差し込んできた・・人口呼吸器を動かすコードが何本も這われているのがわかった・・俺はそれに足を引っ掛けないように慎重に中に入った・・中に入ると人口呼吸器のコーホーという音だけが響いていた・・Mさんにはもう意識はなかった・・
・・俺はMさんをまともに見ることはできなかった・・その人口呼吸器の音だけがするその空間で、部屋を出るとき、コードに足を引っかけてしまったら・・そのことが怖くてたまらなくてそれだけを考えていた・・絶対に引っ掛けちゃダメだ・・何でだろう、その場からすぐに離れたかった・・俺、震えてる・・本気で怖いんだ・・おそらく5分と経っていなかったろう・・配線を踏まないようにすごく慎重にその場をあとにして、お姉さんに声をかけた・・
「・・もういいんですか・・弟はもう意識が戻らないと思います・・万年さん、仕事だったでしょうにありがとうございます・・」
・・っていうか、これって、今、本当に起きていることなのか?・・現実と受け止められない、いや認めたくない気持ちなのか・・
・・いえ、大丈夫ですと伝えて、車に向かった・・とにかく怖かった・・早く家に帰りたかった・・
・・何もかけてあげる言葉がなかった・・あの状態で励ます言葉なんてない・・ただMさんの調子が悪くなってから、本当に元気になれるようにと、自分なりに行動してきたことを思い出していた・・その中で前向きになれるように必要なこともきちんと話はしたつもりだ・・人間は生き抜く意思を持って生きていくことが大切なんだ・・
・・震えもおさまったのでその場をあとにした・・もういつその時がきてもおかしくない・・そう思った・・
それでも何か現実味を感じられずフワフワした感じだった・・
(つづく)
Mさんへ
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